アール・ヌーヴォーの代表格であるチェコ人の画家、アルフォンス・ミュシャの描く優雅でクールな女性の姿は、妖艶でありながら、柔らかな魅力に溢れています。
装飾美術や宝飾品デザインの分野でも活躍したミュシャは、作品の中でどのように宝石やジュエリーを表現したのでしょうか。
ミュシャが表現した宝石の世界
アルフォンス・ミュシャといえば、華々しい曲線の模様や絵柄が最大の特徴です。その繊細で美しい作風は、国内外の画家、アーティスト、デザイナー、漫画家などにも大きな影響を与え続けており、今も世界中で高い人気を誇っています。
数ある作品の中には花や星、宝石などの美しいモチーフをテーマとした連作があります。
上の作品は、トパーズ・ルビー・アメシスト・エメラルドの4種類の宝石をテーマとしたミュシャの連作で、4点1セットの装飾パネルです。
この作品は、宝石そのものを描くのではなく、全体としての色彩、女性の表情やポーズ、人物の下にある花や植物によってそれぞれの宝石が表現されています。
「ルビー」を手に持っている女性以外は、直接的に宝石と判断できる要素はありません。
にも関わらず、それぞれの宝石を無理なく連想させるのは、ミュシャのトレードマークである円環のモチーフを背景に、構図や色彩の規則的な表現、緻密に描かれた人物や植物によるものでしょう。

たとえば一枚目の「トパーズ」の女性は、トパーズを象徴するような黄褐色のドレスをまとい、肘掛けにもたれかかって夢想しています。また、肘掛けをよく見ると、ミステリアスな木彫りが施されているのが分かります。
「4つの宝石」が描かれた1900年、ミュシャは有名な宝石商ジョルジュ・フーケの店舗をトータルでデザインしました。宝石をテーマにした作品は、こういった仕事の流れからインスピレーションを受けたものではないかといわれています。
ミュシャが描いた華麗なジュエリー
サザンボーのポスター「ゾディアック」、ティアラ、豊かな装飾で女性の頭を飾るダイアデム(帯状の王冠)と華麗なネックレス。ビザンチンの女の子が髪にまとう美しい宝石、サロメのストラップ…。
また、当時「アール・ヌーヴォーの巫女」のような存在であった女優サラ・ベルナールのために、ミュシャは百合のティアラとペンダントをデザインしました。
1895年にパリのルネッサンスシアターで行われたエドモンドロスタンドの劇「遠国の姫君」、王女メリザンドの衣装です。
ミュシャ作品の中に描かれたジュエリースタイルは、女性の憧れそのものでしょう。
▼《四つの宝石》のモチーフとなっている宝石▼